歯の構造について

ここまで、むし歯について説明してきましたが、これより、むし歯の進行のしかたについて、説明していこうと思います。

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すでにご説明している通り、むし歯は、歯の表面のミュータンス菌と糖分により産生される酸によって、歯質が脱灰されることにより、歯質が崩壊し、穴が開いていくことにより進行していきます。つまり、歯の表面から穴が開いて、穴は歯の中へと深くなっていきます。

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その進行のしかたを説明するにあたり、まずは歯の構造について説明をします。

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上の図は歯の構造を示しています。

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歯は大きく分けて歯冠と歯根に分けられます。歯冠は正常な状態で、歯茎より上にある部分で、お口の中に見えている部分です。一方、歯根は歯茎の中に隠れている部分で、歯根の周りには歯槽骨と言われる骨があり、歯を支えている部分です。

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歯冠部分は、表面から中心部分に向かって、エナメル質、象牙質、歯髄と、層のようになっています。

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最も表面にあるエナメル質は、厚さが2-3㎜あります。エナメル質は、皮膚や爪などと同じように、体の表面を覆う組織の一部で、歯の表面を覆い、皮膚と同じように外部からの刺激、外部からの有害物質、細菌などの感染から体を守ってくれる役割があるのと同時に、体の中で最も硬いい組織であり、食べ物をかみ砕くのに役立っています。エナメル質は、カルシウムやリン酸などで出来ているハイドロキシアパタイトという硬い組織からできており、99%は無機質です。爪や髪の毛と同じように、感覚を感じたり伝える組織は含まれていないので、爪や髪の毛を切っても痛くないように、削られたり傷つけられたりしても痛みは感じません。

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エナメル質の内側には象牙質と呼ばれる組織があり、エナメル質とは違って、筋肉など体の中身にある組織の仲間です。約70%がハイドロキシアパタイトなどの無機質で、残りはコラーゲンなどの軟組織でできています。エナメル質とは異なり、弾力性や柔軟性をもつので、エナメル質の衝撃などによる破折を防ぐことができます。

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象牙質のさらに内側、歯の中心部分には、歯髄と呼ばれる組織があり、よく“歯の中の神経”と言われている部分ですが、実際には神経だけではなく、血管や結合組織などもあります。体の中の神経は、様々な感覚を脳に伝えますが、歯髄の神経は痛みを伝える神経であり、様々な刺激は痛みとして伝わります。冷たいものを食べてしみたりするのも、冷たい感覚が伝わっているのではなく、痛みとして伝わっています。また、血管により栄養が運ばれたりしています。

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象牙質と歯髄は歯根部分まで続いています。歯根の先端部分には、根尖孔という穴が開いており、ここを歯髄の神経や血管が通っています。

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歯根の周囲は歯槽骨という骨に囲まれており、歯槽骨が歯を支えていますが、直接歯と骨がくっついているのではなく、歯根膜とよばれる組織によってつながっています。歯根膜は、繊維のようなものからなる組織で、その繊維が骨と象牙質表面にあるセメント質という組織とをつないています。歯根膜は弾力性のある組織で、歯にかかる力を感じたり、クッションの役割をはたしています。歯に力を加えたときに、正常な状態でも少し動くのは、この歯根膜の弾力性によるものです。

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歯槽骨の表面は、歯肉という組織に覆われています。いわゆる“歯ぐき”と呼ばれる部分です。歯肉と歯との接合部分は溝のようになっており、歯肉溝(しにくこう)と呼ばれます。正常な状態では、歯肉表面の上皮とエナメル質はつながっており、細菌などが体の中に入ってこないようになっています。

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今回は、歯の構造について説明しましたが、次回は、これをふまえて、むし歯の進行によりどのようなことが起きるのかを説明していこうと思います。

むし歯について11(お口の中の発育について)

前回と前々回で、6歳以上の人と6歳以下の人のむし歯リスクの違いについて紹介しました。大きく違う点は、6歳以下の人は、保護者(日常の養育を主に行っていいる人)の方の影響が大きいということでした。

6歳を一つの境界線として、むし歯のリスクや、むし歯の予防の考え方が違ってくるということを説明しました。しかし、6歳になったからと言って、そのお子様が、急激に発育するわけではありません。

6歳でのお子様の変化としては、6歳になると、それまで幼稚園、保育園、もしくはご家庭で生活していましたが、小学鈎へ入学し、学校で教育を受けるようになります。それだけ、精神的にも成長しているということですが、当然のことながら、まだまだ子供であり、本人のみでの、お口の中の管理は不十分であり、保護者の方の管理が必要な年齢です。

通常は、むし歯になった場合、むし歯が深くない場合は、むし歯の部分を削り取って、その部分を人工的な材料によって、歯の形態や機能を回復させるように、治療を行います。しかしながら、幼児の場合は、精神的にも肉体的にも未発達のため、例えば、治療に対する恐怖心などで怖がっったり、痛みや治療の刺激を受け入れることができず、治療が十分に行えない場合があります。

昭和のころと比較して、最近は、幼児のむし歯は大きく減少してきていますが、それでも、むし歯になるお子さんはいます。早ければ、2歳くらいからむし歯が見つかることもあります。簡単に言うと、乳歯は前歯から生え始めて、最後に一番奥、手前から5番目の乳歯が生えそろうのが、概ね2歳半くらいです。

むし歯を患うお子さんは、3歳くらいから見られます。

3歳のお子様だと、まだ未発達なので、十分に治療を受けられるのは、2-3割程度で、4歳だと5割くらい、5歳になると、7-8割のお子様が十分に治療を受けられるようになります。

十分に治療を受けられるお子様は、むし歯の部分を削って、人工的な詰め物を詰める治療を行いますが、治療を受け入れてくれないお子様は、受け入れてもらえる程度によって、むし歯の進行止めのお薬をつけて様子を見ていったり、仮詰めで様子を見ていったりします。

また、乳歯は歯の表面から歯の神経までの歯の厚みが薄いので、少しむし歯が進行すると、すぐに歯の神経に近づいてしまいます。そのようなむし歯で、むし歯部分を完全に取り除くと、歯の神経が露出してしまうことがあり、そうなると、歯の神経を取り除く処置を行わないといけなくなります。神経を取り除く処置には、麻酔が必要であり、治療の複雑さという点でも、お子様にとってはハードルは高くなります。したがって、神経を取り除く処置を避けるためにも、一時的に仮詰めで様子を見ていくこともあります。

6歳になると、ほとんどのお子様が、治療を受け入れてくれるようになります。

むし歯予防についても、5歳以下のお子様の場合は、保護者の方へのアプローチの部分が大きかったのが、本人へのアプローチへと変わってきます。

しかしながら、先にも書いたように、まだまだお口の中の管理は不十分であり、保護者の方の管理(仕上げ磨き)が必要です。

では、いつまで仕上げ磨きが必要か?

明確な答えはありません。8歳くらいと言われていたり、10歳くらいと言われていたりします。

一つの目安としては、奥歯の乳歯から永久歯への生え変わりの時期だと考えます。一般的には10歳ごろから12歳ごろまでにはすべての歯が永久歯に生え変わります。このころには、お子様も肉体的にも精神的にもさらに発達する時期ですので、これくらいのころまでには、仕上げ磨きは卒業してよいと思います。

以前にも書きましたが、むし歯経験のあるお子様は、むし歯リスクは高いので、この時期を過ぎても、むし歯リスクは高いので、引き続き注意はしていかないといけません。逆にむし歯経験のないお子様は、むし歯リスクは低いですが、小学校を卒業し、中学生になると、試験勉強や部活などで、生活リズムや食生活が変化し、むし歯リスクが高くなることもありますので、その点は注意が必要です。

定期検診や歯科医院でのメンテナンスなどを利用し、虫歯予防を続けていくことは大切だと思います。

今回は、お子様の成長に伴うお口の変化について説明しました。

むし歯について10(幼児のむし歯の予防、むし歯のリスクについて)

前回は、6歳以上の人についてのむし歯リスクについて紹介しましたが、今回は、6歳未満の幼児についてのむし歯リスクのことを、まずは説明していきます。

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どのようにむし歯になるのかは、6歳以上の人も、6歳未満の幼児も同じで、お口の中にミュータンス菌が感染していると、ミュータンス菌が食べ物や飲み物の中の糖分や炭水化物から酸を産生し、その酸によって歯が溶かされて穴が開いてむし歯になります。

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では、6歳以上の人と、大きく違う点は何かというと、

・幼児は、自分自身でお口の中の管理ができないこと、

・お口の中の管理は、保護者(厳密に言うと、日常の養育を主に行っている人)によって行われること、

・幼児のむし歯のなりやすさは、保護者(日常の養育を主に行っている人)の影響を大きく受けること、

などです。

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保護者(日常の養育を主に行っていいる人)と書きましたが、最も大きな影響を与えるのは、母親ですが、共働きなどで、一日の中でほとんどの時間、幼児の面倒を見ているのが祖父母などの場合は、その方が、日常の養育を主に行っている人であり、その方の影響も大きく受けます。

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では、具体的に、どのようなことがむし歯になるリスクに関係しているかというと、

〇歯磨きの回数

幼児は、本人ではきちんと歯磨きができないので、保護者(日常の養育を主に行っていいる人)が、一日に何回歯磨きをしてあげているかで、むし歯のリスクが変わります。本人による歯磨きは、あまり意味はないと考えてよいです。

〇フッ素の使用状況

歯磨きの回数に加え、その際にフッ素入りの歯磨剤やジェルを使用しているか、その他のフッ素の使用を併用しているか、によって歯磨きのリスクに影響します。

〇食事、間食の回数、時間

〇授乳状況、哺乳瓶の使用状況

寝る前の授乳を離乳期を過ぎても続けている場合や、寝る前でなくても、哺乳瓶の使用回数が多かったり、使用時間が長かったりすると、むし歯リスクは高くなります。

〇保護者(日常の養育を主に行っていいる人)にむし歯があるか、過去1年間にむし歯治療の経験があるか

保護者(日常の養育を主に行っていいる人)にむし歯があったり、今はなくても最近までむし歯があると、幼児のむし歯リスクは高いです。

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これらのことが、むし歯リスクに影響します。

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いずれの項目も、本人が何かできることではなく、保護者(日常の養育を主に行っていいる人)が変えていかないと、むし歯リスクを少なくすることはできないことばかりです。

特に、保護者(日常の養育を主に行っていいる人)にむし歯があるか、ということは、幼児のむし歯リスクとしてあまり知られてはいませんが、大きな影響を与えます。

お子様のむし歯リスクを減らすためには、家族の方にむし歯がない状態にしておくことが重要ですので、お子様本人へのケアも大切ですが、家族の方のお口のケアを一番に考えた方が良いようです。

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今回は、6歳未満の幼児についてのむし歯リスクのことを説明しました。

むし歯について9(むし歯の予防、むし歯のリスクについて)

前回は、ミュータンス菌の感染について、また、子供のむし歯予防についても少し説明しました。

今回はむし歯の予防について、少し詳しく説明します。

これまで、むし歯がどのようにできるのかを詳しく説明してきました。

簡単に言うと、お口の中にミュータンス菌が感染していると、ミュータンス菌は食べ物や飲み物の中の糖分や炭水化物から酸を産生し、その酸によって歯が溶かされて穴が開くのがむし歯です。

最も簡単にむし歯予防を考えるとしたら、このむし歯ができる流れを、どこかで食い止めることができれば、むし歯にはなりにくくなると思われます。

例えば、ミュータンス菌の感染を防ぐことができれば、糖分や炭水化物があっても、酸は作られにくいことになりますし、歯磨きをしっかり行って、ミュータンス菌の数を減らしたり、歯の表面に残っている糖分や炭水化物を取り除けば、やはり、作られる酸は少なくなります。

また、間食の回数や時間を減らすことでも、糖分や炭水化物の供給を減らすことができます。

さらに、フッ素を使用することで歯を強くすると、酸に対する抵抗力が上がり、むし歯になりにくくなります。

このように、むし歯になる流れのどこかを止めることによって、むし歯を予防することができますが、むし歯の予防を考える時には、その人がどれくらいむし歯になるリスクが高いのかを考えることによって、より効果的なむし歯予防の方法を選択することができるようになります。

むし歯になるリスクに関係のあることには、以下のようなことがあります。

〇現在むし歯があるか

今現在むし歯がある方は、すでにむし歯リスクは高いといえます。

〇過去3年間にむし歯治療の経験があるか

治療が完了していたとしても、過去3年以内にむし歯があった方は

むし歯リスクは高いです。

〇奥歯の咬み合わせの溝の深さ

深いとむし歯リスクは高いです。

〇タバコ、お酒、医薬品以外の薬物の使用

リスクファクターになります。

〇唾液の分泌量

少ないとむし歯リスクは高くなります

〇歯ぐきが下がって歯の根が露出していないか

歯の根の部分が露出しているところはむし歯になりやすいです。

〇お口の中に何らかの装置をはめているか

矯正の装置など、お口の中にはめる装置はむし歯リスクを高くします。

〇フッ素の使用状況

フッ素の使用はむし歯リスクを低くします。

〇クロルヘキシジンの使用

クロルヘキシジンでうがいをすると、むし歯リスクを低くします。

〇キシリトールの摂取

キシリトールの摂取はむし歯リスクを低くします。

 

このようなことがむし歯になるリスクに関係しています。

 

これらは、6歳以上の人についてのむし歯リスクに関係する事柄であり、6歳未満の幼児については、また別の事柄を考慮する必要がありますので、次回は幼児についてのむし歯リスクのこと、さらには、今回挙げた事柄についての詳しい説明をしていこうと思います。

 

むし歯について8(むし歯の成り立ち、むし歯菌の感染)

前回は、むし歯の原因菌である“ミュータンス菌”は、“感染”するものであり、感染してしまうとむし歯になりやすくなること、幼児期に感染しやすい時期があること、について説明しました。

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今回はミュータンス菌の感染について、もう少し詳しく説明します。

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ミュータンス菌は、全ての人のお口の中に存在するのではなく、感染している人と感染していない人がいることを、前回説明しましたが、では、感染している人は、どこから感染するのでしょうか?

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答えは、お母さん、お父さんなどの、主たる養育者であると考えられています。

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子供のミュータンス菌の遺伝子型を調べた研究によると、ミュータンス菌に感染している子供のうち、母親由来のミュータンス菌を持っている子供が約5割、父親由来が約3割、その他が約2割だそうです。

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また、下のグラフは、お母さんのお口の中のミュータンス菌の数とミュータンス菌に感染している子供の割合の関係を示したグラフです。

ミュータンス菌の感染割合2

 

お母さんのお口の中のミュータンス菌の数が少ないと、そのお母さんの子供にミュータンス菌が感染する割合は低いのに対し、お母さんのお口の中にミュータンス菌が多いと、そのお母さんの子供には、高い割合でミュータンス菌が感染しているのが分かります。

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したがって、子供のむし歯予防について考えるときに、ミュータンス菌に感染すると、むし歯になりやすくなるので、いかにミュータンス菌に感染させないようにするかを考えることが大切で、そのためには、お母さんのお口の中のミュータンス菌の数を減らすことが重要と言えます。

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また、ミュータンス菌が感染しやすくなることとして、お母さんと同じ箸や同じスプーンを使う、お母さんの口の中に入れた食べ物を子供に与える、子供のお口にチューをすること、などが挙げられます。こうしたことを徹底して避けるようにすれば、ミュータンス菌は感染しにくくなりますが、あまり神経質になると、育児がつまらなくなりますし、子供とのスキンシップも制限されてしまいますので、がんばり過ぎなくても良いと思います。

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また、お母さんのお口の中にむし歯があると、子供もむし歯になりやすいとも言われていますので、子供のむし歯予防の第一歩として、お母さんがむし歯の治療を済ませておくことも大切です。

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今回は、ミュータンス菌の感染について、また、子供のむし歯予防についても少し説明しました。

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次回から、むし歯の予防について、もう少し詳しく説明しようと思います

むし歯について7(むし歯の成り立ち、脱灰と再石灰化、むし歯菌の感染)

これまで、むし歯の成り立ちについて、歯の表面にむし歯菌がいて、糖分が存在すると、むし歯菌は糖分から酸を産生して、歯の中のカルシウムやリンなどのミネラル分が歯から溶け出す“脱灰”を引き起こすと説明してきました。

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むし歯菌として知られている代表的なものに、“ミュータンス菌”があります。“ミュータンス菌”は、お口の中にある様々なばい菌の中でも、むし歯にとても関係しているばい菌です。

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これまでも説明しているように、むし歯菌のミュータンス菌は、糖分から酸を産生するのですが、もう少し詳しく説明していきます。

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ミュータンス菌がどのようにむし歯に関与しているかと言うと、

1.不溶性グルカンの産生

糖分を材料として、菌のまわりに、ネバネバした不溶性グルカンというものを作り出します。不溶性グルカンによって、歯の表面に付着するとともに、他のばい菌と塊を形成します。 このばい菌の塊がプラークです。

2.酸の産生

糖分を材料として酸を産生し、歯を溶かします。

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では、このミュータンス菌は、全ての人のお口の中に存在するのかと言うと、そうではありません。ミュータンス菌を持っている人と、持っていない人がいます。ミュータンス菌を持っている人は、糖分がお口の中に入ると、歯の表面で酸が産生されるので、むし歯になりやすい人です。反対に、ミュータンス菌を持っていない人は、糖分があっても、酸の産生は少ないので、むし歯にはなりにくい人です。

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ミュータンス菌は、産まれた時からお口の中にいるのではなく、ある時から“感染”して、お口の中に住み着いてしまうものなのです。

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いつごろから、“感染”するのかというと、歯が生えてきた頃から感染が始まります。そして、生後19ヶ月~31ヶ月頃が、最も感染しやすい時期で、この時期に“感染の窓”が開くと表現されます。

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この時期は、卒乳して離乳食が始まった後、乳歯の奥歯が生えてくる時期から、乳歯が奥歯まで生えそろう時期です。

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お口の中に入ってくる食べ物は、授乳期の母乳や人工乳から、離乳食の初期は、舌でつぶすような食べ物だったのが、奥歯で咬むような食べ物へ変化していく時期です。

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そのような食べ物の変化や、歯が生えそろうことによる、お口の中の環境の変化によって、ミュータンス菌が感染しやすい状態になるのだと思います。

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ミュータンス菌は、一旦感染してしまうと、取り除くことはほぼ不可能です。ですので、感染させないように気をつけることが、むし歯を予防する上では、とても重要です。

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今回は、むし歯の原因菌である“ミュータンス菌”は、“感染”するものであり、感染してしまうとむし歯になりやすくなること、幼児期に感染しやすい時期があること、について説明しました。

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次回は、“ミュータンス菌”の“感染”について、もう少し詳しく説明していきます。

むし歯について6(むし歯の成り立ち、脱灰と再石灰化、唾液の影響)

前回は、食事や間食の回数が増えたり、長い時間お口の中に食べ物が存在することによって、歯の表面が脱灰される時間が長くなることにより、むし歯になりやすくなり、逆に、間食の回数を減らす、だらだらと間食をとらない、食べた後に食べかすが残らないようにする、といったことに気をつけることで、むし歯のリスクを低くすることができることを説明しました。

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今回は、唾液がむし歯のなりやすさにどのように影響しているかを説明しようと思います。

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これまでに説明したように、歯の表面では、むし歯菌がいて糖分が供給されると、むし歯菌は糖分から酸を産生し、この酸により、歯の中のカルシウムやリンなどのミネラル分が歯から溶け出す“脱灰”を引き起こし、糖分の供給がなくなると、溶け出したミネラル分が歯に取り込まれる“再石灰化”を生じます。これらの現象はお口の中で起きていることであり、この現象が起きている歯の周りには、常に唾液が存在し、その唾液の影響を少なからず受けています。

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むし歯の成り立ちやむし歯の予防において、唾液が与えている影響の一つには、ミネラルの供給源ということが挙げられます。唾液にはカルシウムやリンなどのミネラルが含まれているので、歯の表面のpHが中性に近い時には、唾液がカルシウムやリンなどのミネラルを供給して再石灰化が生じます。

唾液の2つ目の作用として、浄化作用があります。特にサラサラの唾液は、歯の表面にある糖分や酸を洗い流して、浄化させる作用があります。

3つ目は、緩衝作用。唾液には、むし歯菌が作った酸の力を弱める作用があり、これを緩衝作用と言います。緩衝作用は、唾液の中の、重炭酸塩、リン酸塩、タンパク質などによるもので、中でも、重炭酸塩が主な役割を果たします。

全身的な病気や、薬の副作用、加齢などにより、唾液の分泌量が少なくなると、浄化作用や緩衝作用が上手く働かなくなるので、むし歯になりやすくなります。

唾液の分泌量を増やすためには、よく咬むことが大切です。食事の時は、水やお茶などの水分で流し込んで食べないようにし、よく咬んで食べることで、唾液の分泌量を増やすとともに、成長期の子供にとっては、よく咬むことが、歯並びや、お口の機能の発育、さらには、顔面の発育にも良い影響を与えますので、よく咬むことは、とても大切なことと言えます。

また、寝ている間は、唾液の分泌量が少なく、お口の動きも少なくなるので、糖分や酸が歯の表面に長時間とどまりやすい状態になります。したがって、夜寝る前に、間食をして、歯を磨かないで寝てしまうと、むし歯になるリスクは非常に高くなってしまいます。

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今回は、むし歯の成り立ちやむし歯予防において、唾液が与える影響について、唾液の“ミネラルの供給源としての働き”、“浄化作用”、“緩衝作用”について、ご説明しました。

むし歯について5(むし歯の成り立ち、脱灰と再石灰化のバランス、食事の影響)

前回は、食べ物を食べることによって、歯の表面は酸性になって脱灰が生じ、その後、唾液の作用により中性に戻って再石灰化が起こること、食事のたびに、この脱灰と再石灰化が繰り返されることを説明しました。

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今回は、食事や間食がむし歯のなりやすさにどのように影響しているかを説明しようと思います。

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食事や間食とむし歯の関係については、いくつかの側面があります。

例えば、“甘いものばかり食べているとむし歯になる”っていうことが言われていたりしますが、本当でしょうか?

下のグラフは、国別の、一人当たりの砂糖の消費量とむし歯の本数を示したものです。

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砂糖消費量とむし歯の本数

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“甘いものばかり食べているとむし歯になる”、ということが本当であれば、砂糖の消費量の多い国でむし歯の本数が多くなるはずです。

しかし、日本は、他の国に比べて砂糖の消費量は一番少ないのに、むし歯の本数は一番多い結果となっています。

つまり、甘いものを多く食べたからといって、むし歯になりやすくなるというわけではないようです。

ここで示されている、国別の一人当たりのむし歯の本数の違いに何が影響しているかは、また別の機会に説明します。

甘いものを多く食べると、むし歯になりやすくなるわけではないですが、全く無関係というわけではありません。

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下の図は、前回説明しました、食べ物を食べた後の、歯の表面のpHの変化のグラフです。

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ステファンカーブ

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繰り返しになりますが、食べ物を食べた後、歯の表面は酸性になって脱灰が生じ、その後、唾液の作用により中性に戻って再石灰化が起きます。

この現象は、糖分や炭水化物などを含む食べ物がお口の中に入るたびに繰り返されます。

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通常、食べ物がお口の中に入るのは、朝・昼・夜の食事の時と、間食の時です。間食の取り方は個人により差があると思いますが、3時ごろに一度間食を取るとすると、食べ物がお口の中に入る回数は、一日4回です。この場合の、歯の表面のpHの変化をグラフにすると、下の図のようになります。

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1日4食

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食事や間食の後に、脱灰される時間がありますが、それ以外の再石灰の時間のほうがはるかに長いため、むし歯になってしまったり、むし歯が進行してしまうリスクは低いといえます。

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しかし、間食の回数が多いと、下の図のように、脱灰の時間は多くなり、再石灰化の時間は少なくなってしまいます。

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1日7食

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こうなると、歯の表面からミネラル分が溶け出してしまう時間が長くなり、歯がもろくなって歯に穴が開いてむし歯になるリスクは高くなります。

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また、間食の回数だけではなく、間食のとり方もむし歯のなりやすさに関係します。

だらだらと間食をとっていると、歯の表面に糖分が持続的に供給され、その間はずっと脱灰されていることになります。また、飴のように長い時間お口の中にあるもの、キャラメルやビスケットなど、食べた後に歯の表面にくっついて長くとどまるものでも、同様に糖分が長時間供給し続けられますので、脱灰の時間が長く続きます。

この場合の、歯の表面のpHは下の図のようになります。

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間食だらだら

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このように、食事や間食の回数が増えることによって、歯の表面が脱灰される時間が長くなり、また、食べ物がお口の中に存在する時間が長くても、脱灰の時間が長くなり、むし歯になりやすい状態となります。

逆に言えば、間食の回数を減らす、だらだらと間食をとらない、食べた後に食べかすが残らないようにする、といったことに気をつけることで、むし歯のリスクを低くすることができます。

むし歯について4(むし歯の成り立ち、脱灰と再石灰化について)

前回は、歯の表面で起きている、“脱灰”と“再石灰化”について説明しましたが、今回は、もう少し詳しく説明しようと思います。

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前回、“脱灰”はミネラルの“溶け出し”、“再石灰化”はミネラルの“回復”であり、そのバランスにより、脱灰(溶け出し)が多くなるとむし歯になり、再石灰化(回復)が多いとむし歯にはならない、というお話をしました。

 

では、どのような時に脱灰(溶け出し)が起きて、どのような時に再石灰化(回復)が生じているのでしょうか?

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これまで説明しているように、歯の表面にむし歯菌がいて、糖分が存在すると、むし歯菌は糖分から酸を産生して、歯の中のカルシウムやリンなどのミネラル分が歯から溶け出す“脱灰”を引き起こします。

逆に言えば、“むし歯菌”と“糖分”が無ければ、“脱灰”は起こりません。

“むし歯菌”は、歯磨きにより少なくすることはできますが、完全に無くすことは難しいので、基本的に、常に歯の表面にいます。

一方、“糖分”は、食べ物によって供給されるもので、食べることにより歯の表面の“糖分”の量は増加し、食べ物がお口の中から無くなれば、供給される“糖分”の量は減少します。

つまり、食べた直後は、“むし歯菌”と“糖分”の条件が揃っていて、“脱灰”の最盛期の時間帯と言えます。逆に、食べていない時は、“むし歯菌”はいますが、“糖分”は無いので、“脱灰”は起こらない(起きていてもわずか)ということになります。

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むし歯菌がいて、糖分が存在すると、むし歯菌は糖分から酸を産生するので、歯の表面のpH(酸性度)は極端に酸性になります。

食べ物を食べた後の、歯の表面のpHの変化をグラフにすると、図のようになります。

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ステファンカーブ

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通常の状態では、歯の表面は中性のpH7ですが、食べた直後には急速に酸性になります。歯の表面が一定のpHより酸性になると脱灰が始まるという境界のpHを臨界pHといい、一般にはpH5.5から5.7で、図の紫色の帯の部分が臨界pHになります。食べ物を食べた後は、この臨界pHを越えてpHが下がり、臨界pHを越えて酸性になっている間は脱灰が続いていることになります。この状態はいつまでも続くのではなく、歯の周りには唾液が存在し、唾液が酸を洗い流したり、唾液の酸を弱める作用により、時間とともに歯の表面のpHは元の中性に戻っていきます。臨界pHを越えて中性寄りになっている間は、歯の表面では再石灰化が行なわれ、脱灰された部分が修復されます。完全にもとの中性の状態に戻るのには、食べた後から40分かかると言われています。

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このように、食べ物を食べることによって、歯の表面は酸性になって脱灰が生じ、その後、唾液の作用により中性に戻って再石灰化が起こります。食事のたびに、この脱灰と再石灰化が繰り返されています。

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前回も説明したように、この“脱灰”と“再石灰化”のバランスによってむし歯になるかならないか(なりやすいかなりにくいか)が決まります。つまり“脱灰”が“再石灰化”よりも多くなるとむし歯になり、“再石灰化”が多いとむし歯にはならないということです。

次回は、“脱灰”と“再石灰化”のバランスについて説明ようと思います。

むし歯について3(むし歯の成り立ちについて詳しく)

前回は、どうしてむし歯ができるのかについて説明しましたが、今回は、より詳しく、少し科学的に説明したいと思います。

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歯の頭の部分の一番外側は、エナメル質というとても硬いもので覆われています。人の体の中で最も硬い組織です。とても硬いですが、細菌の作り出す酸に長時間さらされると、溶けてしまいます。溶かされて穴になったものが“むし歯”です。

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もう少し詳しく説明していきます。

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当然のことですが、歯はお口の中にあります。通常、お口の中には唾液が存在しますので、歯は常に周りを唾液で囲まれていることになります。

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また、お口の中にはとても多くの細菌が存在します。その数は数千億個もあり、種類は300から700種類くらいいると言われています。その細菌の中には、唾液の中に浮かんでいるもの、舌や粘膜の上に住み着いているものや、歯の表面に住み着いているものなどがあります。このうち、むし歯に関係するのは、歯の表面に住み着いているものです。歯の表面に住み着いている細菌は、それぞれ単独で歯の表面に張り付いているのではなく、プラークという細菌の塊となって、歯の表面にくっついています。

プラークの成分は、8割くらいが水分です。残りの2割は細菌と粘着物質で構成されていて、その中の約3/4が細菌、約1/4が粘着物質です。プラークの中の細菌も数百種類いますが、すべての細菌がむし歯に関係しているのではなく、むし歯に関係しているのは、お口の中の糖分から酸を作り出す細菌です。つまり、すべての細菌が糖分から酸を作り出すのではなく、ある特定の細菌が糖分から酸を作り出します。それらの細菌を、俗に“むし歯菌”と言います。代表的なむし歯菌には、“ミュータンス菌”があります。

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むし歯菌の作り出した酸が歯の表面に作用すると、カルシウムやリンなどのミネラル分が歯から溶け出します。このことを“脱灰(だっかい)”と言います。脱灰が進むと、歯はもろくなっていき、もろくなった部分が崩れると穴になります。この穴がむし歯です。

脱灰は一方通行で進行するばかりなのではなく、溶け出したミネラル分は、条件が整えば歯の中に戻ることができます。これを“再石灰化(さいせっかいか)”と言います。

歯の表面では、この“脱灰”と“再石灰化”が繰り返されています。“脱灰”はミネラルの“溶け出し”、“再石灰化”はミネラルの“回復”です。“溶け出し”と“回復”のバランスが取れているか、“溶け出し”の時間よりも“回復”の時間が多ければ、むし歯にはなりません。しかし、“溶け出し”の時間が“回復”の時間より多ければ、歯の表面の“脱灰”が進行してむし歯になります。

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次回は、この“脱灰”と“再石灰化”について、もう少し詳しく説明します。